若島です。

今回もマンガを紹介したい。何かというと、ずばり『海皇紀』川原正敏。この作品は、個人的には大好きなのだ。

というわけで、『海皇紀』08年9月現在1~37巻 のレビューを書いてみた。あれほど面白かった前作『修羅の門』が霞むほどの傑作であり、SFファンタジーである。

物語の舞台は―たぶん地球の―未来である。作中で直截に語られているわけではないが、おそらくは核戦争などで文明が滅び、知識の断絶を経て、再出発した人類が、15~17世紀と同程度の文明にまで発展した世界だと思われる。

また、現代との時間の開きが、どのくらいあるのかが判る描写はなく、唯一例外的に、1巻の序文で「北極星がケフェウス座γ星に移った」と解釈できる記述があるのみとなっている。この解釈が正しければ、現代からおよそ2500年後に相当する。

この世界では、人類の知識はリセットされているものの、世界に点在する高い技術を思わせる「遺跡」や、バッテリー、電灯、トランシーバー、暗視ゴーグルなど、使い方しか判らない道具、太古の人類が目印として打ち上げたという「動かない星」の伝説などが残存しており、かろうじて一部の魔道師が、古(いにしえ)の業(わざ)を「カガク」と呼んで、かつて存在したのであろう高度な文明との接点を残している。

現在の地球と、地形が大幅に変わっている陸上には、複数の国家が乱立しており、互いに覇を競っているが、魔道の兵器である「ダイナマイト」と「カノン砲」の生産に成功した大国ロナルディアが、当代最強の艦隊と最強の攻城兵器をもつことになり、圧倒的な強さで他国を次々と傘下に収めている。

一方、海は海で、陸には領土を持たない海洋国家「海の一族」が、交易の保全や、必要とあらば傭兵となり、海の守護神として海洋を支配している。海の一族とは、何かは知らずに、おそらくは漂流していたのであろう巨大な空母を拠点に生活し、何代も栄え、洗練された社会システムを構成し、優れた知識、高い技術を持つ海洋民族である。

われらが主人公ファン・ガンマ・ビゼンは、そんな真のオーパーツ、真の超古代文明、真の古代核戦争が存在する世界(ハンコックやデニケンが不誠実な愚か者ではなく、シュリーマンのように扱われるべき世界!)を舞台に、海の一族の中でも、最高の人物として活躍していく。

伝説の「ニホントウ」を背に持ち、帆船の時代に異様な性能を誇る「影船」を所有し、操船術、気象学、天文学、白兵戦(格闘術)、剣術、海戦の指揮、権謀術数、度胸、洞察力、知性、頭脳から視力まで、あらゆる面で突出している超一流の人間性能のキャラクターである。そして、酔狂で、嘘つきで、クリティカルシンカーなところがある。

それだけ無茶な特徴にもかかわらず、不思議と嫌らしい印象も感じさせない、めちゃくちゃ格好いいキャラクターとして仕上がっている。また、世界の設定が、現代のオーパツ系超古代文明論を踏襲している雰囲気のため、作者がビリーバーである危険性が懸念されるが、実に素晴らしいことに、その手の疑似科学的信念・非合理思考はお呼びでなく、主人公は、たびたびクリティカルシンカーぶりを発揮して素晴らしいのだ。

実際にインチキ教祖を倒すくだりは、最高の活躍と振る舞いである。そのように、主人公が魅力的ということに加え、マンガ的な非現実的要素をギリギリまで許容し、それでいえリアリティにつま先立ちするという絶妙さがある。

他のキャラモいい。故国の復興を目指し、いにしえの業「カガク」を求める亡国の皇女マイア。「カガクとは呪文じゃよ」といって電磁方程式や、相対性理論の方程式をつぶやく大魔導師イルアンジャ。

実に合理的なシステムを採用している海の一族。赤外線スコープや無線通信などの古代の道具を使用する魔人衆。大麻を焚き、トリックで人心をつかみ、国を乗っ取るインチキ教祖。

「面子ではなく名誉を重んじる」といって誤った指令を即座に撤回する最年少艦長。そんな要素の一つ一つが、非常に面白く魅力的な、王道の枠を広げる王道少年漫画である。

ちなみに、著者は船舶の専門学校を出ており、操船の描写や用語にこだわりを持っているようで、そういった細部の表現も、世界観に厚みを与えている。2008年現在で9月現在で37巻である。そろそろ膨大な複線も収束し、ストーリーも深部に来ている。だが、できるだけ長く続いて欲しいと思う傑作なのである。