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クルスキーの手形

調査, 執筆:本城達也

1919年、および1922年に、フラネク・クルスキーという霊媒が厳重管理のもと行われた交霊会の実験で、後に「幽霊実在の決定的証拠」と言われるものを出現させた。それが「クルスキーの手形」と呼ばれるロウを使用した精巧な手形である。

この手形の作り方は、熱湯に溶かしたロウの中にエクトプラズム状の手を出現させて入れ、ロウが全体を覆って固まったら手を非物質化して型を取るというもの。(※注)

※注 さらに保存するためロウの型に石膏を流して固め、全体を覆っているロウを剥がすという作業を研究者が行う。こうして最終的に出来たものが「クルスキーの手形」と呼ばれる。

この大変壊れやすいロウの型から、複雑に手を握った状態の型を壊さずに指を抜いたり、細い手首部分を通って手全体を抜いたりすることなどは、幽霊のように「非物質化」できるものでなければ絶対に不可能な作業だと言われる。

またクルスキーは実験を行う際、両手を隣の席の者に握られて動けないようになっていた。さらにすり替えがあった場合にすぐわかるようにするため、秘かに実験の直前にロウの中には微量の試薬が混ぜられていた。

こうすることで、後に出来たロウの手形の一部を切り取って別の薬品を加えると色が赤く変化するのである。つまり手形は外部から持ち込まれたものではなく、まさしくその場で作られたものであることを証明できるというわけだ。実際クルスキーの手形は検査の結果、赤色の反応を示し、すり替えはなかったことが証明されている。

写真引用元

  • 『世界心霊大百科』 ムー特別編集 (学研) P.17

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長らく謎だった作製方法

クルスキーの手形は世に現れて80年近くの間、懐疑論者などが人間による作製方法を模索してきた。しかし、それらは作り方が複雑すぎたり、ようやく出来た完成品がお粗末な出来だったりしたため、作製方法は長らく謎となっていたのが事実である。

ところが1997年、イタリアの懐疑論者マッシモ・ポリドーロとルイジ・ガルラスケッリの二人が、作り方もシンプルで出来栄えも見事なクルスキーの手形を再現することに成功した。

作り方はいたって簡単。人間でも、ゆっくりと慎重に作業をすれば、ロウの型を壊さずに手を抜くことが可能だというのだ。「人間には不可能」という先入観を捨てることが大事だということだろうか。

しかし、二人が再現した手形は石膏で固める前のロウだけの状態の写真がなかったため、少し説得力に欠ける部分があった。また何より私自身、それほど特殊な設備が必要なくとも作ることが可能だというこの手形を、自分で作ってみたいという気持ちが強くあった。

そこで私は実際に自分で作ってみることに挑戦してみたわけである。結果は試行錯誤の末、成功したといえる。やはり人間でも作ることは可能だったのだ。以下では、その過程を写真つきで紹介し、さらには「両手を隣の者に握られたコントロール状態から抜け出すことは不可能」だという謎の解説も行うことにする。

写真引用元

  • 「SPIRIT MOULDS」 - Journal of the Society for Psychical Research -

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拘束から抜け出す方法

クルスキーが行った交霊会に限らず、霊媒が「両手を握られた状態」で物理的な現象を起こすことは19世紀後半からよく行われていた。確かにこれなら霊媒は自由がきかず、その場で起きた現象は霊が起こしたものにも見える。

しかしよく考えてみよう。交霊会はほとんどが光を消した暗闇の中で行われるのだ。この相手の姿が見えず触覚が頼りの状態では、「霊媒の手を握っている」と相手に思わせる事ができるかどうかが、脱出への重要な鍵となる。

写真引用元

  • 『世界心霊大百科』 ムー特別編集 (学研) P.41

 

しかし実際は霊媒の手を握っていないのに、相手には確かに「握っていた」と思わせる方法などあるのだろうか?

これが実際にあるのである。やり方はこうだ。霊媒は握られている両手をすぐ近くにある状態で保持しておく。そこから霊を呼び出す作業中に起こすケイレンや震えといった動作に紛れて、一瞬だけ手を持ちかえるようにして離す。

すると、相手はすぐに握り直そうとするが、相手が改めて握ったその手は霊媒のものではなく、その隣にいる人の手になっているのだ。下のイラストを見てほしい。両手、もしくは片手を自由にする方法や、指をつないでいるときのやり方など細かい違いはあるものの、上で書いたやり方が基本となっている。

これらはイギリス心霊研究協会の懐疑論者だったリチャード・ホジソンが、数々の交霊会に実際に参加して暴いてきた方法だ。

  

 

なお、交霊会では部屋の明かりがつく直前に手が解かれるので、両脇の人たちは交霊会の最後まで霊媒の手を握っていたと勘違いしてしまう。

イラスト引用元

  • 右:『超能力現象のカラクリ』 坂本種芳/坂本圭史 (東京堂出版) P.55
  • 左:『奇跡・大魔法のカラクリ』 W・B・ギブソン (東京堂出版) P.157

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クルスキーの手形の作り方

さて、ここからは肯定派の間で「人間が作ることは絶対不可能」だと言われるクルスキーの手形の作り方を写真つきで紹介しよう。(写真はクリックすると拡大できる)

用意するのは、実際にクルスキーの実験でも使われたもので、パラフィン・ワックス(ロウ)、水温計、大きめのバケツに入った熱湯と冷水。

ただしこの中でロウは融点によって複数の種類があり、私は最初、平均的な55度で溶けるロウを使って実験を行った。ところがいきなりやるには熱すぎたため、一回しか試すことができなかった。(52度まで下げて試しても熱いと感じるほど)

ところがその後にもっと融点の低いロウがあることを知ったので、今度はそれを使って実験を行うことにした。 右がその現物「パラフィン・ワックス115」の写真である。融点は48.5度なので熱さは問題ない。

クルスキーの実験でこれと同じ種類のロウが使われたのかは調べても不明だったものの、仮に違ったとしても私が実験していく中で、慣れれば52度でも耐えられるようになったことや、再現に成功したポリドーロらは55度でも熱さを問題にしていなかったことから、熱さは個人差や慣れでクリアできるレベルの問題だと思われる。

なお、このパラフィン・ワックスを入手するにあたり、私が問い合わせて用途を説明したところ、日本精蝋株式会社様が無償で製品をご提供くださった。この場を借りて深く感謝の意を表したい。

さて、材料のほうは全部揃ったので再現実験の解説を始めよう。大きめのバケツに熱湯6リットルを入れ、300gのロウを溶かす。(送っていただいたのは1㎏分あったが、基本的にロウは冷えて固まったあとも溶かせば再利用できるので300gあれば十分)

手形をつくる際は、溶けたロウの中に手を入れる前に自分のつくりたい手の形をしっかり決めてつくっておく。そして水温が50度前後になったら形を崩さないように手を入れる。(ロウの付き具合によっては2回か3回)

そして手を出したときが左写真の状態だ。ここから形を崩さないように手を抜いていく。肯定派の本では「人間では絶対に不可能」と書かれている作業だ。しかしやってみてわかったが実際にはコツをつかんで慎重にやれば実現可能な作業である。

まずは手首についているロウを軽く皮膚から剥がす。(両手の場合は破れるのを覚悟のうえ手首を何度も動かして剥がす)

次に空いている方の手で、ロウが覆っている方の手首とヒジの間を強く握り、手首とは反対方向に引っ張る。こうすることで手の皮膚も引っ張られ、皮膚とロウが剥がれやすくなるのだ。(両手の場合は握った手を上に突き上げる)

あとは慎重に何度かロウを動かすとわずかに隙間ができるので、慎重に手をゆっくり動かしながら引き抜いていく。すると直感的には無理に思えることが実際にはできるのだ。どうやらある程度硬さのあるロウ型に対し、人間の手は比較的柔軟に動かすことができるため抜くことができるらしい。

なお、最後のところでは細い手首部分を通り、それよりも大きい手を抜かなくてはならないが、さすがにそれは無理だと思われる方もいるかもしれない

しかし、これはハリー・フーディニが考案したやり方を実践すれば問題ない。それは完全に冷えて固まる前のロウは少しだけ伸びる性質があるので、慎重に手首部分を通せば少しだけ広がり、破れずに手を抜くことが可能だというものだ(実際、慎重にすれば破れない)。そして、その少しだけ広がってしまった手首部分は、すぐ後なら元の大きさに手直しすることが可能である。

さて、こうして手を引き抜いたあとの「ロウの手形」が以下の写真。右は、下から中の様子を見たところ。

 

次はこれに石膏を流しこんで固める。(下の写真)

 

そして最後は、全体を覆っているロウを剥がせば「クルスキーの手形」の完成。

 

 

他にも難易度の高いものに挑戦したので紹介しておきたい。以下は右手を使った手形。左上からロウが手全体を覆っている状態、右上は手を抜いたあとのロウ型を下から見た様子、下段は完成形。

 

 

 

続いては両手を使った手形。完成形の人差し指は撮影中に折れてしまったので接着剤で付けてある。

 

 

今回の事例を振り返ってみると、中には途中で破れてしまったこともあったし、せっかくロウの手形まで成功したのに石膏で固める段階で失敗したことなどもあった。しかし試行錯誤しながらやったことは苦労した反面、楽しくもあった。また何より良い経験と勉強になったと思う。

なおクルスキーが参加した実験も、1919年11月と12月、ワルシャワの自宅で行われた1921年の9月、そして1922年の4月、5月と、回を重ね時間が経つごとに複雑で完成度の高い手形を作ることが出来たという。彼もまた裏で試行錯誤を重ねていたのかもしれない。

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参考資料

  • 「SPIRIT MOULDS」 - Journal of the Society for Psychical Research -
  • A・Berger / J・Berger『The Encyclopedia of Parapsychology and Psychical Research』(Paragon House)
  • ムー特別編集『世界心霊大百科』(学研)
  • ピーター・ヘイニング『世界霊界伝承事典』(柏書房)
  • ローズマリ・グィリー『妖怪と精霊の事典』(青土社)
  • 坂本種芳 / 坂本圭史『超能力現象のカラクリ』(東京堂出版)
  • W・B・ギブソン『奇跡・大魔法のカラクリ』(東京堂出版)
  • ケネス・シルバーマン『フーディーニ!!!』(アスペクト)
  • ジョン・ベロフ『超心理学史』(日本教文社)

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